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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3357号 判決 1960年1月28日

原告 大洋商事株式会社

右代表者 内田純一

右代理人弁護士 東里秀

被告 増井賢

外四名

被告五名代理人弁護士 成田哲雄

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

当裁判所が本件につきなした昭和三四年(モ)第五四五五号仮処分執行停止決定はこれを取消す。

前項に限り仮にこれを執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

請求原因(一)の事実は当事者間に争がない。

ところで証人雨宮利雄、同古川美代、同後藤正雄及び同山根安伸の各証言、雨宮証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第二乃至第四号証によると、

別紙物件目録記載の部屋は、原告会社が社員の住宅難緩和のため、独身従業員二人位の住居にあてる目的で、昭和三十三年三月頃訴外古川美代より賃料月額金四千円で期限を定めず賃借し、あわせて賄料一人当り月額金四千円前払いの約で朝夕の賄をつけて貰うことを約したもので、一、二週間の短期間の宿泊施設として用いるため賃借したものではないこと。

前記月額金四千円の賃料は入居者に負担させることなく、原告会社に於て厚生費より支出し、賄料は入居者に負担させるが、原告会社に於て訴外古川美代に対し立替え前払いすることとして昭和三十三年四月より原告会社の独身従業員後藤正雄及び岡島一弘がこの部屋に居住し、同年十二月岡島一弘が原告会社を退社し本件部屋より退去したのに伴い、そのあとにやはり独身従業員山根安伸が入居し、後藤正雄と二人で居住し現在に至つていること。

その居住中右三名はいずれも月額金四千円の賄料のみを負担し無償で本件部屋を使用していること、

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

かように本件八畳間は原告会社に於て会社の業務執行の場所として直接現実に使用しているものと認むべき事跡なく、却つて訴外後藤正雄と同岡島一弘が昭和三十三年四月より同年十二月迄、ついで訴外後藤正雄と同山根安伸が昭和三十四年一月以降現在迄本件八畳間を継続して共同でその住居として私生活の場としてのみ使用して来た点に着目すると、右訴外人らは原告会社より本件部屋を共同で使用するよう使用貸借契約により借受け、以て夫々独立の占有をなしているものと解すべきであつて、同訴外人らが原告会社の占有補助機関として占有しているものと解するのは相当でない。

尤も前記証拠によると、「昭和三十三年四月、五月、昭和三十四年一月に夫々一、二週間他の従業員が本件部屋に宿泊したことがあり、これについて居住者たる後藤正雄や山根安伸が異議を述べたことがなく、又後藤正雄は原告会社より退去せよと言われれば当然でなければならぬと考えている、」ことが認められるが、他の従業員が一、二週間宿泊したことは臨時の出来事であつて、本件八畳間が不特定の従業員の宿泊設備として使用されていたわけでなく、又後藤らが右の臨時宿泊に異議を述べなかつたことや、又原告会社より言われれば退去すると考えていることも、結局同人等が雇われている者の立場で無償で本件八畳を借受けていると言う弱い立場から、事実上原告会社の言う通りになる旨の態度を表明したものと察せられるし、元来使用貸借契約では法律上も借主の地位が極めて弱いことを併せ考えると、これらの事実があるからと言つて前認定の妨げとなるものではない。

以上の次第で本件仮処分執行当時原告会社が本件部屋を直接占有していたとの主張は採用できないから、これを前提とする異議の訴は理由がない。

次に原告は原告が本件部屋の間接占有者であるとしても、原告の間接占有が無視されて本件仮処分が執行されてよい筈がないと主張するが、本件仮処分の目的は本件部屋の直接占有それ自体であつて、後藤正雄、山根安伸の直接占有を執行吏の保管に移しその上で更に右両名に占有させ、そのまままの状態に固定し、右両名の占有の移転を禁ずるものであつて、間接占有そのものはこれを侵害していないのであるから、間接占有者はその間接占有に基く占有権を以て、本件仮処分の執行を妨げる権利を有しないものと謂うべきである。よつてこの点に関する原告会社の主張も採用できない。

以上の理由で原告会社の本訴請求は失当であるから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条仮処分執行停止決定の取消及びその仮執行につき同法第五百四十九条第五百四十七条第五百四十八条を夫々適用して主文の通り判決する。

(裁判官 宅伏壮一郎)

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